WORKS 実績紹介 WORKS 実績紹介

BLOGブログ

ドリーム・マシーン、始動!

CiteCinema01

1年半ほど前にパリ北部サン・ドニにオープンした映画スタジオCité du cinéma/シテ・デュ・シネマを訪れた。総面積6ヘクタールを超える敷地に9つのステージを構えるフランス最大級の撮影スタジオだ。

メインの建物には、1930年代にパリのメトロに電力を供給していた火力発電所の建屋がそのまま利用されている。廃墟と化していたこの場所で映画『レオン』のワンシーンを撮影したリュック・ベッソン監督が、いつかこの地に撮影所を作ろうと思い立ったのが始まりだ。鉄で出来た骨格や幾何学模様のイタリア製のタイルをそのまま残したアール・デコ建築が美しい。

今のところフランス映画の予算規模やニーズとはマッチしない点が多く、北米を中心とする海外の作品の撮影が多いそうだ。スタジオとして活発に機能していると言える状況ではまだないが、その中で目を引いたのがスタジオ内に併設されている二つの映画学校だ。一つは古くからある映画の技術者を育てるためのルイ・リュミエール国立映画学校。もう一つは、リュック・ベッソン監督自ら開校した、脚本家・監督を養成するための小さな学校だ。入学のための受験資格は国内の他のどの映画学校とも違い学歴は一切必要ない。英語を話せ、ベッソン校長を驚かすことができる企画力を持っている、この二つが合格のポイントだ。視線の先はフランス国内ではなく、あくまで世界だ。

この話を聞きながらふと思い出したのは、やはりほぼ同時期に開校したもう一つの学校「42」だ。インターネットや携帯電話の通信業で今や飛ぶ鳥を落とすほどの勢いのある新参企業Free/フリーの代表グザビエ・ニール氏が設立した、プログラマーを始めITのシステム開発者を育てる学校だ。こちらも入学試験を受けるにあたって学歴は一切問われない。それどころか、今の教育システムに適応できずに高校を中退になった子達の中には優れた才能があるに違いないとさえ考えている。校舎の中には広い部屋にMacのパソコンがずらりと並び、先生による講義は全くなく、生徒同士で協力し合いながらグループ作業でプログラムを作っていく。雰囲気はスタートアップ企業さながらで、フランスでは珍しく日夜関係なく作業が出来たり、「42」という学校名もダグラス・アダムスのSF小説からとったネーミングだったりと、Geek、つまりオタク文化や遊び心を前面に出している。

フランスの映画業界、通信業界、それぞれの分野の先頭に立つ異端児二人が近年学校をオープンさせたのは単なる偶然ではない気がする。異端児が異端児であることを武器に、根強い学歴社会から脱却して実力重視をポリシーとし、新しい自由な発想で人材を育てる動きが確実に始まっている。

シテ・デュ・シネマのメインホールには、発電所の名残としてあえてタービンが撤去されずに残され、グラフィティ・アートのアーチストらによってカラフルな色が付けられている。その名も、夢の製造工場なる「ドリーム・マシーン」。今後、フランスの映画界や通信界の「ドリーム・マシーン」から何が生まれてくるだろうか?この国ならではの歴史や文化の香りを漂わせながら、誰もまだ見たことのない蒸気を勢いよく吹き出してくれることを心から期待している。

悪戯アニメ:りんたろう