WORKS 実績紹介 WORKS 実績紹介

BLOGブログ

パテ・ベビーの埃払い

Pathe Baby1

イラスト:りんたろう

師走である。この時期になると、大掃除といった大それた事はしないまでも、普段はあまり手をつけない所を掃除してみたくなる。その一つが仕事用のデスクの傍に鎮座している古い映写機だ。

1922年にフランスの映画会社パテ社がリリースした世界初の家庭向け小型映画『パテ・ベビー』。10年ほど前に、パリの郊外で開かれていた骨董市で手に取って以来、ほぼ毎日顔を合わせている。映写機とカメラが発売されるや否や一世を風靡し、1960年代後半に8ミリが台頭するまで家庭用フィルムの中心的存在として人気を集めた。年代を追う毎に変貌を遂げた鶏をあしらったパテ社のロゴや各パーツの形を見る限り、私が持っている映写機はおそらく1920年代後半のものではないかと思う。

パテ・ベビーの愛好家は今でも世界各地にいて、フランスを始めイギリス、ドイツ、スペイン、ベルギー、アメリカ等の多くの国々で、人数は少なくとも情熱あふれる活動を続けている。パーフォレーションの穴が中央についた幅9.5mmという独特なフィルムに魅了され、存続のために尽力する人々がいるのだ。

パテ・ベビーには、今で言うDVDやBlu-rayに匹敵する、映画館で上映されている映画の家庭版と、ホームビデオに相当する、一般の人が撮影した個人映画の両方が存在する。例えば前者では、現存しない映画のパテ・ベビーが古い民家の屋根裏部屋から出てきて思わぬお宝が発見されたという事例も少なくない。

パテ・ベビー登場から90年以上の時が経った。スマートフォンを片手に持ち、カメラの向きを変えて自分撮りすることも、撮った映像をメールで送ったりYouTubeで公開し瞬時に世界中に配信することも当り前となった。私自身のスマートフォンやタブレットにも、ムービーの編集・加工をいとも簡単にできるアプリがいくつも入っている。技術は進歩しても、見たい欲求、撮りたい欲求、そしてそれを共有したいと思う気持ちの奥底にあるものは1世紀近く経った今もさほど変わっていないのかもしれない。

とは言っても、フィルムに触れた時のあの感触と言い、フィルムが回る音やプロジェクターから光が放たれる瞬間と言い、五感に直接訴えかけてくる映画にはやはり浪漫を感じずにはいられない。そして、日夜タッチパッドのスクリーン上で指を滑らせながらも、パテ・ベビーを見る度に襟を正すような気持にもなるのだ。

映写機はコンセントの部分さえ取り換えれば機能するらしいので、上映は充分可能だ。来年こそは取り換えて、これまで集めておきながら見れていなかった9ミリ半のフィルムの数々を見てみようと心に誓いながら、黙々と埃を払っている。